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日記06 はじまりの事件④

Author: 久遠遼
last update Huling Na-update: 2025-10-16 19:00:26

「はぁ?」

三人が同時に声を出した。

突然、榊原先生が犯人だと言われてもなんのことだとなるのは当然だ。

「エリカ、なぜそう思ったのか教えてくれないか?」

「うん、任せて! 倉本くん、ちょっとそのパンフレット貸してくれる?」

エリカは、倉本の鞄を指差して言った。

「パンフレット? う、うん、いいけど」

眉を潜めつつも、倉本は鞄からパンフレットを取り出してエリカに渡す。

彼女はそれを受け取ると、「やっぱりね!」と呟いてから、俺の方にそれを差し出してきた。

「はい、これが事件の鍵だよ!」

訳が分からないまま手渡されたそれを確認すると、あることに気がついた。

そして、ゆっくりと教室を見渡してから確信した。

「なるほど……確かに榊原先生が今回のことを引き起こしたと言えるな」

「ど、どういうことだよ雨宮」

相沢が目を細めながら問いかけてくる。

「今回のことはたまたま、偶然の出来事とタイミングが噛み合って引き起こされたんだ」

「そう! 結果的にいっちーが原因ではあるのだけど、誰もファイルに触れることなく自然に倉本くんの鞄の中に入っちゃったんだよ」

俺たちの言葉に、三人は見つめあってから戸惑いの声を漏らす。

「ファイルが勝手に移動したっていうのかよ」

「ああ、その通りだ」

工藤の問いかけに答えると、倉本が呆れの混じった声で呟く。

「そんなおとぎ話やファンタジーじゃないんだから、あり得ないよ」

「なら、それを今から見せてあげる! 相沢くん、ファイルをもう一度机の上に置いてくれる?」

「お、おう」

相沢は言われるがままに、机の上にファイルを置く。

「ついでに何冊か教科書を貸してくれ、できるだけパンフレットと同じサイズ感のものがいいな」

俺が三人にそう言うと、それぞれ何冊か教科書を鞄から取り出して机の上に置いた。

「それでね! このパンフレットをクリアファイルの上に置いてから、教科書を上に置いて……」

エリカはそう言いながら、ファイルのすぐ上にパンフレットを置き、その上に教科書を積み上げた。

「じゃあ直くん、これを教卓までよろしく!」

エリカに言われ、俺は教科書とパンフレットを移動させると、相沢が驚きの声をあげる。

「……ファイルがない! まさか!」

教卓にどさと教科書とファイルを置いた後、パンフレットのみを残して教科書をどける。

そして、そのパンフレットを手に取りその裏を見せる。

「パンフレットの裏にファイルが……いったいどうして?」

今度は工藤が声をあげた。

「それはこのパンフレットの裏とファイルが原因だ」

そう言いながら、俺はパンフレットから、クリアファイルをぺリッと小さな音をたてながら剥がしてみせる。

「それはどういうことなの?」

倉本は二つを見つめたまま首をかしげる。

「さっき“いっちー“が言ってたよね? 教頭先生が本をまとめていた帯を外しちゃったて。

それで、帯についていたノリがパンフレットについちゃったか残っちゃったかしたんじゃないかな?

ほら、少しパンフレットの裏、部分的にベタつくでしょ?」

本当にファイルが誰の意思とも関係なく、相沢の机から移動した事実に三人が言葉を失う。

やがて、工藤がパンフレットの裏を触り確かめる。

「ホントだ……一部分だけべたついている」

「それに加えて、このファイルだ。ファイルの外フィルムをそのままにしていたな?

それにもノリが使われているから、一部ベタつく箇所がある。

どんなに大切にしていても、元々保管用のフィルムじゃないからな、貼り付け部分が多少ずれて、ノリの部分が僅かに露出していたんだろう」

今度は相沢が確認する。

「確かにこっちもベタつくな」

エリカはそれを聞いて、頷いてから続きを話す。

「それぞれ残ったノリは少しだけど、二つのノリでファイルを一時的に引っ付けて運んじゃったんだよ!」

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